意外と知らない歯の役割
歯の第一の機能は咀嚼(そしゃく-食べ物を噛み砕く)機能ですが、それ以外にも、歯を噛み合わせること(専門的には咬合[こうごう]といいます)は、全身の健康状態をバランスよく保つために、重要な役割を果たしています。
人間は、重い荷物を持ち上げたり、スポーツでボールを打つなど、体に力が入るときに無意識に歯をくいしばります。また、緊張する場面や、人によっては、睡眠中にも歯をくいしばっています。この際の噛む力は、最大で自分の体重に匹敵するほど大きな力となります。
歯の噛み合わせが正しい位置であれば、このような大きな力が歯には加わっても、噛み合わせに働く筋肉に余計な緊張は起こりません。ところが噛み合わせの位置がずれていると、たとえそれほど強い力で噛みしめることが無くとも、筋肉には常に緊張が生じ、やがて首の筋肉を経て全身に及びます。
このように、噛み合わせに問題がある場合、後述する顎関節症(がくかんせつしょう)の他に、頭痛、腰痛、肩こり、耳鳴り、めまい、目のかすみ、手足の冷え・しびれなどの症状 (不定愁訴といいます)を引き起こすことがあります。もしこれらの症状がある方で、内科等にかかられても、症状が改善されない場合、歯科医院で、ご自分の状況をチェックしてもらうのも一つの方法です。
当院では噛み合わせのメカニズムと全身への影響、正しい噛み合わせの重要性をご理解いただくのに、少しでもお役に立てればと思っております。
顎関節症について
噛み合わせの不具合や、顎の関節のずれなどの問題によって生じる諸症状を総称して顎関節症と呼びます。
症状は顎の関節部分や、噛み合わせに働く筋肉の異常が主なものですが、これ以外にも、頭痛、腰痛、肩や首筋の凝り、耳鳴り、めまい、目のかすみ、手足の冷え・しびれ・不眠症・疲れやすいなどの症状も広い意味での顎関節症の症状としてとらえることがあります。
顎関節症は虫歯、歯周病に続く、歯科領域における重大な疾患として、近年注目されつつあります。
柔らかい食品を好むなどの食生活の急激な変化や、ストレスの多い現代社会が、顎関節症の増加に拍車をかけているとも言われています。
顎関節症の主な症状
- 口を開けにくかったり、大きく開けられない
- 口を開けるときに”コキッ”と音がする
- 口を大きく開けると、左右のいずれかに下顎がずれる
- 顎の筋肉や、こめかみが痛い
- 耳の中が圧迫されるような痛みがある
- 顔が左右対称ではなく、歪んでいる
ドーソン咬合理論の習得
当院長は、日本補綴歯科学会より指導医および専門医の資格を受けた補綴治療のスペシャリストではありますが、それでも長年、明確な咬合理論を自分の治療の中に確立したいと模索して参りました。そして1999年、アメリカで開催された、Dr. Teru Haradaの咬合に関する講習を受け、ついに明快でシンプルな咬合の理論を習得し、目からうろこが落ちる思いを致しました。
この理論は世界的な咬合学の権威であるDr. Dawsonによって広く紹介され、ドーソン咬合理論と呼ばれるものですが、日本でこの理論を正しく理解し、実践できる歯科医師は限られています。
院長が師事するDr.Haradaは、Dr.Dawsonから直接教えを受けた直弟子であり、院長はその理論および治療のテクニックを身につけた結果、現在では歯科医師向けに毎年、日本で開催される咬合の講習会で、
Dr.Haradaのパートナーを務めております。
治療法紹介
咬合調整
噛み合わせは、見た目の歯並びの良し悪しとは必ずしも一致しません。たとえ、歯列矯正や
審美治療を受け、上下の歯がそれぞれきれいに揃っていたとしても、噛み合わせの理論を無視して治療が行われると機能的な問題が生じてきます。また、残念ながら矯正治療のみでは、咬合の微妙な調整までは不可能です。
当院の咬合調整では、ドーソン咬合理論に基づき、精密検査の後、噛み合わせに問題を起こす歯を突き止め、顎の位置が安定した位置(中心位)で口を閉じたときにすべての歯が均等に接触するように調整します。通常、1~2回の通院で正しい噛み合わせを回復することができます。
治療の流れ
- 精密検査
- 問診、顔面・口腔内精密診査を行い、症状を確認します。両手誘導法と様々な器具を用いて正しい噛み合わせ位置の確認と記録をします。
上顎、下顎の型を採り、診査用模型を作製します。 所要時間は30分ほどです。
- シミュレーション
- 次回の患者さんの来院までに、模型上で咬合調整のシミュレーションを行います。いきなり患者さんの口腔内で調整を始めるのではなく、模型上でのシミュレーションというワンステップをはさむことにより、実際の口腔内での治療は、確実・かつ最小限の切削量ですむ咬合調整を確保することができます。
- 口腔内での調整
- 模型上のシミュレーションを参考にし、正しい噛み合せの位置に誘導しながら、中心位で全ての歯が接触するまで、少しずつ調整します。個人差がありますが、所要時間は30~60分ほどです。
- 再調整
- 一度の調整で終わらない場合や、調整が完了しても、後日、若干のずれが生じる場合もあり得ます。1年以内であれば、回数に制限無く、無償で調整させていただきます。
スプリント療法
顎関節症の症状が強い場合や噛み合わせのずれが大きく、すぐに噛み合わせを正しい位置に誘導できない場合、顎の関節に加わる力の軽減や、下顎頭の位置の修正を目的としたスプリント(マウスピース)を常時、装着して少しずつ正しい位置に誘導します。
ナイトガード療法
起床時に顎や首の痛みを特に強く感じる場合、睡眠中に、ご自身では気付かない歯ぎしりをしている可能性が強く疑われます。無意識の歯ぎしりの力は想像以上に強いもので、ご自分の歯が削れてしまったり、被せものが壊れてしまう場合こともあります。そのような場合、ナイトガード(薄いマウスピース)を作製し、就寝時に装着していただき、症状の緩和を図ります。
よくある質問
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いいえ、そうではありません。見た目の問題と、噛み合わせの問題は全く別のお話ですので、前歯が出ていたとしても、審美は別として、噛み合わせに問題がなければ支障はありません。
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加齢により歯並びが悪くなっていくことも多いので一概には言えないのですが、歯並びが悪いと噛み合わせに問題を生じ、その結果、さらに歯並びが悪くなっていくという悪循環があります。一度歯並びが崩れてしまうと、残念ですが自然には元には戻らないので、早めの治療をお勧めします。
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矯正は歯列矯正といい、歯並びを美しくし、機能的にも問題のない歯列を創り出す治療です。もちろん、噛み合わせのことも考えて治療を行いますが、微妙な噛み合わせの調整は、矯正だけでは不可能な場合もあります。咬合治療は歯の位置を動かす事はなく、微妙な噛み合わせの調整のみ行います。したがって矯正治療のように、見た目での大きな変化はありません。
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調整後、しばらくしてまた他の部位が当たってくることがありますので、その場合、再度、わずかな調整が必要になることがあります。治療開始から1年以内であれば、追加の診療代金を頂戴することはありません。